中国・湖北省の武漢市を発生源とする新型コロナウイルスがニュースで騒がれだしたのが2020年1月。そこから感染者は日を追うごとに増加し、パンデミックへと繋がりました。1月の時点で、まさか緊急事態宣言が発令されるまでの事態になるとは多くの方が想定していなかったのではないでしょうか。今回は、この新型コロナウイルスがオフィス市場へ与える影響について考察してみたいと思います。
テレワークとは「tele=離れた所」と「work=働く」をあわせた造語で、ICT(情報通信技術)を活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を意味します。一般社団法人日本テレワーク協会が定める定義では、テレワークには大きく3種類あり、従業員の自宅で仕事を行う「在宅勤務」 、取引先のオフィスや移動途中の駅、カフェなどで仕事を行う「モバイ ルワーク」 、そして専門の事業者が提供するサテライトオフィスやコワーキングスペース、自社で整備した専用施設などで仕事を行う「サードプレイ スオフィ ス勤務」 が含まれます。新型コロナウイルスによる騒動で、「オフィスの在り方」や「働き方」が否応なしに見直さる状況となっています。従来も時差出勤やフレックスタイム制など、ある程度の柔軟な働き方はあったものの、中小零細企業を中心に多くの企業は定時に始業する企業が多く、まだまだ一般的に浸透しているとまでは言えませんでした。現在でも多くの方は、毎日決まった時間に通勤し、決まった時間から業務を開始しているという方が多いのではないでしょうか。感染拡大防止のために緊急事態宣言が発令され、否応なしにテレワークを実施しなければならない状況となりました。
この緊急事態宣言の発令がなされた以降、多くの企業がテレワーク、とりわけ在宅勤務に切り替えていますが、これを転機として従来の働き方を見直す動きが加速するかもしれません。業種や職種にもよりますが、ノートPCやスマホなどを備え通信環境が整えば、場所を問わずどこでも仕事が可能です。時間という括りで考えれば、東京を中心に大都市圏であれば通勤時間に片道1時間以上、全国平均でも片道40分以上を要している方が多く、これを削減できるだけでも朝夕の通勤ラッシュから解放され、心身ともにフレッシュな状態で業務を開始出来るのは最大のメリットでしょう。また、この削減出来た時間を、社員のスキルアップや資格取得の時間に充てるなど有効利用が可能です。一方で、在宅勤務を
導入可能な業種や職種、業務は限られる為、もちろん全ての業務が回るとは限りません。経理や総務、人事など管理系の部門、社外への情報の持ち出しが制限される業種などは在宅勤務は基本的には難しいでしょう。この騒動で試験期間なく在宅勤務になった企業においては、適材適所での導入がより鮮明になることでしょう。
また、テレワークはオフィスとしての機能に変化をもたらすことにも繋がります。まずスペースの削減です。毎日定時に出社する勤務形態を、例えば定例の会議などで週に1度出社する勤務形態に変えれば、それだけ固定席を減らしてスペースの縮小が可能でコスト削減に繋がります。フリーアドレスやフレックスタイム制を導入済みの企業は今では多くなっていますが、更に加速する可能性はあるでしょう。単純な機能面での側面から見る一方で、人材の採用強化や著名ビルに入居しているという対外的なブランド力など、目に見えない機能を求める部分もありますので、ビルとしてのハード面というよりも「業務の見直し」「ICT(情報通信技術)システムの導入」「社員の意識改革」「評価制度の見直し」などソフト面の見直しが重視されることになるでしょう。
この新型コロナウイルスの影響はリーマンショックのそれとは別物で、中小零細企業や個人事業主に対して直接的に影響を与えています。外出自粛と休業要請にて小売業、飲食業、観光産業、製造業、イベント関連事業などを中心に経済的損失は大きなものとなっています。国は経済支援策や融資支援策など発表されていますが、損失の全てを補うほど即効性があるかは未知数です。
この新型コロナウイルスの感染拡大になる前のオフィス市場は、空室不足で賃料も高値が続いていました。現時点で撤退や解約などにより空室発生が相次いでいるかと言えば、まだそこまでの現象は見られません。しかしながら、契約直前でキャンセル、内覧して候補になっていた段階で時期の見送りなどで再募集などコロナの影響は少しづつですが日増しに増えてきている印象は受けます。予定していた内覧の出張がキャンセルになったり、新規開設の時期を一旦白紙
に戻すなど、企業側も先が読めない状況で慎重になっており、この騒動を期に規模縮小や撤退、集約などの事例も。オフィスビルの解約予告は多くが6ヵ月前予告ですので、早くて6ヵ月先からは新型コロナの影響による空室が増え始めることが想定されます。テナントニーズの鈍化で賃料も以前までの高値が少しは落ち着くかもしれません。そして、大手企業を中心にテレワークで業務がうまく回ると実証されれば、スペース削減による返床や縮小移転を決断する企業も出始める可能性があります。
いずれにしても、経済活動自体がここまで制限されるのは初めての事態の中、オフィスの在り方や働き方自体が見直される大きな転機となるはずです。
潮目が変わるのを注視し、ベストな事業判断が求められることになるでしょう。